それは、4月29日の昼間のこと、意外な人からメッセージが届いた。
遠方にお住いのその人とは4年前に一度お会いしただけ。
とあるファンクラブでのイベント。
ファンの中では有名な方だったので、自分は一方的にその人のことを知っていた。
オフ会的な要素も強かったそのイベント。
「同業種」ということもあり、少しその人と交流ができた。
名刺を頂き、自分は名刺代わりに1st.アルバムをお渡しした。
SNSで繋がり、その後、数回メッセージのやりとりがあった。
拙アルバムについて、大変ありがたいお言葉を頂いていた。
しかし、交流はそのときだけ、直接お目にかかる機会もないまま、4年が過ぎていた。
この度のメッセージには、この連休に4年ぶりに上京されるということ。
そして、もしライブ予定があるなら、観に行きたいということが記されていた。
意外な方から、思いもよらないメッセージを頂き、驚くやら嬉しいやら。
10も歳の離れたその人は、人生においても、音楽においても大先輩。
驚かないはずがない。
しかし、驚きよりも喜びの方がずっと大きかった。
自分のことを忘れずにいてくれただけでなく、音楽に興味を持ってくれている。
しかも、今回はバンド仲間の人も一緒だという。
「近くにお越しの際はお立ち寄りください」なんてのは、大概が社交辞令。
古くからの知り合いだって、そうそう会う機会を設けられるものではない。
あいにく、連休中に自分にライブ予定はなかった。
しかし、せっかくの機会なので、ぜひお目にかかりたいと思った。
互いの時間を調整し、4日の夕方、渋谷で会う約束をした。
すっかり賑わいを取り戻した都心で、4年ぶりの再会と新しい出会い。
しこたま飲んで、食べて、語って。
まるで、ずっと旧知の仲だったかのように、かなり深い話もした。
自分の好きな作家、はらだみずきさんの小説、「海が見える家」シリーズの最終巻。
「旅立ち」の150頁に次のような件がある。
「人と人との関係は、過ごした時間の長さや会った回数で決まるのではない。」
人間関係の真理が、端的に見事に表されていて、とても心に響く言葉だ。
4年前の邂逅は、時を経て、新たな絆に発展した・・・と少なくとも自分は感じている。
それだけ、濃密な時間が流れていた。
あっという間の3時間だった。
まだ活気の残る渋谷の街を背にして、電車を乗り継いで帰路につく。
飲み過ぎた体を吊革にぶら下げて、空いた座席に体を滑り込ませる。
ところどころ意識を失うものの、乗換駅や下車駅ではきちんと目が覚める。
飲み過ぎて頭痛を抱えながら、それにしても良い夜だったと、独り言つ。
自宅までの道すがら。
ふと空を見上げるてみると、満月の一歩前、待宵月が浮かんでいた。
なぜか分からないが、このとき初めて、月の兎が見えた。
今まで、どう見ようとしても、兎には見えなかった月の模様。
だが確かに、この時の月は、兎が餅をついて楽しそうに弾んでいた。
絶対に写らないと分かっていながら、スマホのカメラでパチリ。
忘れられない夜、忘れたくない夜、でも、何もしないと忘れてしまうんだな、これが。
ガンガンと響き渡る頭で考えていた。
「そうだ、歌を作ろう」
再会と出逢いの素敵な夜、弾んだ心が、月の兎も弾ませた。
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