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執筆者の写真たかまつなおき

月に兎を初めて見た夜

更新日:2023年5月5日


それは、4月29日の昼間のこと、意外な人からメッセージが届いた。


遠方にお住いのその人とは4年前に一度お会いしただけ。

とあるファンクラブでのイベント。


ファンの中では有名な方だったので、自分は一方的にその人のことを知っていた。

オフ会的な要素も強かったそのイベント。

「同業種」ということもあり、少しその人と交流ができた。

名刺を頂き、自分は名刺代わりに1st.アルバムをお渡しした。

SNSで繋がり、その後、数回メッセージのやりとりがあった。

拙アルバムについて、大変ありがたいお言葉を頂いていた。


しかし、交流はそのときだけ、直接お目にかかる機会もないまま、4年が過ぎていた。


この度のメッセージには、この連休に4年ぶりに上京されるということ。

そして、もしライブ予定があるなら、観に行きたいということが記されていた。


意外な方から、思いもよらないメッセージを頂き、驚くやら嬉しいやら。

10も歳の離れたその人は、人生においても、音楽においても大先輩。

驚かないはずがない。

しかし、驚きよりも喜びの方がずっと大きかった。

自分のことを忘れずにいてくれただけでなく、音楽に興味を持ってくれている。

しかも、今回はバンド仲間の人も一緒だという。


「近くにお越しの際はお立ち寄りください」なんてのは、大概が社交辞令。

古くからの知り合いだって、そうそう会う機会を設けられるものではない。

あいにく、連休中に自分にライブ予定はなかった。

しかし、せっかくの機会なので、ぜひお目にかかりたいと思った。

互いの時間を調整し、4日の夕方、渋谷で会う約束をした。


すっかり賑わいを取り戻した都心で、4年ぶりの再会と新しい出会い。

しこたま飲んで、食べて、語って。

まるで、ずっと旧知の仲だったかのように、かなり深い話もした。


自分の好きな作家、はらだみずきさんの小説、「海が見える家」シリーズの最終巻。

「旅立ち」の150頁に次のような件がある。


「人と人との関係は、過ごした時間の長さや会った回数で決まるのではない。」


人間関係の真理が、端的に見事に表されていて、とても心に響く言葉だ。

4年前の邂逅は、時を経て、新たな絆に発展した・・・と少なくとも自分は感じている。

それだけ、濃密な時間が流れていた。


あっという間の3時間だった。

まだ活気の残る渋谷の街を背にして、電車を乗り継いで帰路につく。

飲み過ぎた体を吊革にぶら下げて、空いた座席に体を滑り込ませる。

ところどころ意識を失うものの、乗換駅や下車駅ではきちんと目が覚める。

飲み過ぎて頭痛を抱えながら、それにしても良い夜だったと、独り言つ。


自宅までの道すがら。

ふと空を見上げるてみると、満月の一歩前、待宵月が浮かんでいた。

なぜか分からないが、このとき初めて、月の兎が見えた。

今まで、どう見ようとしても、兎には見えなかった月の模様。

だが確かに、この時の月は、兎が餅をついて楽しそうに弾んでいた。

絶対に写らないと分かっていながら、スマホのカメラでパチリ。


忘れられない夜、忘れたくない夜、でも、何もしないと忘れてしまうんだな、これが。


ガンガンと響き渡る頭で考えていた。


「そうだ、歌を作ろう」


再会と出逢いの素敵な夜、弾んだ心が、月の兎も弾ませた。

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