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執筆者の写真たかまつなおき

若き情熱に…

2023年8月26日(土) 国立劇場大劇場

第34回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演の初日を観て来た。


関東に出てきて今年で30年目にして、初めて訪れた国立劇場。


「その気になればいつでも来れたのに その気になるまで随分とかかった」


これは、今年できた新曲「月兎ーOur Way」の一節だが。

今回はその気になったというよりは、そのきっかけを頂いたというほうが正しい。


徳島県立城東高校演劇部が、今年の全国高等学校総合文化祭において。

徳島県勢として、実に39年ぶりの最優秀賞を獲得した。

このニュースは地元徳島はもとより、自分自身にも様々な人から届けられた。


演劇部顧問である吉田晃弘教諭は、高校3年間の同級生。

かなり密度の濃い三年間を共に過ごしたし、卒業後も交流は続いた。


高校時代から演劇部だった彼は、高校教諭となり演劇を指導するようになった。

彼自身が脚本を書き、生徒が演じる。

母校赴任時に演劇部が全国大会に出場するなど、彼は確実に実績を積み重ねた。

そして、この度の快挙。

自分のことのように嬉しかった。


8月11日に開催した徳島での自分とナカタクとのツーマンライブでは。

同級生が何人か集まり、プチ同窓会のようになったが。

そこでも、アキ(吉田先生のこと。以下同様)の快挙の話で持ちきりだった。

(以前のライブにはアキも参加してくれていたが、流石に今回は忙しそうだった)


その全国最優秀の演劇を生で鑑賞できるチャンスがあると言う。

それが、今回の国立劇場での東京公演。

これは演劇以外にも、日本音楽や郷土芸能の部があると言う。

そのような催しが30回以上も行われていたことなどまるで知らなかった。

知っていたとしても、よほど関心でもないとそこに行こうとは思わなかっただろう。


アキのおかげで、また一つ、知らない世界に足を踏み入れることができた。

しかも、国立劇場はこの秋より改修工事に入り、今の劇場では今回が最後という。

趣のある外構えの建物の中、大劇場は巨大な緞帳にも厳かさを感じた。

現在の文化庁長官、作曲家の都倉俊一氏の挨拶もあった。

何にも知らず、よく分からないまま好奇心だけで現地に赴いた自分だが。

大会の規模の大きさを改めて感じる。


高校生とは言え、全国のトップクラスの文化・芸術が終結する祭典。

司会進行も都立高校の生徒が行っていた。

総合司会のような生徒さんは1年生だと言うが、見事な立ち振る舞いだった。

たくさんのエピソードを、何も見ずに、堂々と語り、進行していく。

挨拶分を読み上げる大人達とは対照的だった。

(そこは、歌詞カードを見ながら歌うことの是非に通じるものがあると思っている)


オープニングは、東京の帝京高校のジャズパフォーマンス。

16人のビッグバンドが4曲演奏して、華やかに幕が開ける。

その後、前半部門に4校のパフォーマンス。


東京の狛江高校による日本音楽「二つの群の為に」という筝曲。

低音パートと高音パートのコントラストが対照的。

不安定な和音が醸し出すミステリアスな楽曲。


続いても、和歌山県の橋本高校による「大河」という筝曲。

どちらの学校も当たり前だが、見事なアンサンブル。

演奏の合間に漏れ聞こえる呼吸が、その緊張感を表している。

アニメ「この音とまれ!」の世界を思い出した。

(知識のない自分はそれぐらいしか思いつかない)

この10分程度の楽曲のために、いったいどれほどの時間を費やしたのだろう。


続いては、愛知の松蔭高校による郷土芸能「神楽太鼓組曲『祈り』」

大勢の太鼓に2頭の獅子、そして巫女。

ただ太鼓を叩くのではなく、バチを回したり、時には放り投げたり。

壮大な歌声もあり、それは圧巻で見事なパフォーマンスだった。


前半最後は、岩手県北上翔南高校の郷土芸能「鬼剣舞」

仏が姿を変えたという角のない鬼たちが舞い踊る。

1300年も続くという天下泰平、五穀豊穣への祈りが込められた剣舞。

後半、鬼たちが一つの輪になって様々な隊列に変化するのが、見事だった。


この二つの郷土芸能を自分はまったく知らなかった。

こういう文化は全国のあちこちにあるのだろう。

どちらの高校も、地元でも様々な場で披露しているという。

高校生が、部活として郷土芸能を守り、継承するというのは素晴らしいと思った。


少し時間が押して前半終了…と思えば、そこから幕間インタビューがあった。

運営上の意図があるのだとは思うが、その進行は疑問だった。

「幕間」というのだから、転換時に行えば時間がロスせずに済むと思った。


結局公開されていたタイムスケジュールは、前後半の入れ会時間を短くして行われた。


後半は演劇が二つ。

まず、東京の千早高校による「フワフワに未熟」

先の全国大会で優秀賞に選ばれた3校のうちのひとつ。

全員女子部員で、脚本も生徒自身が書いているという。

「女子高生」の日常、朝、学校に行く前から学校の終わりまでの時間内に。

彼女らの会話を通して、「あるある」ネタから社会問題まで。

見ている方にも息付く暇を与えないほど、次から次へと展開するテンポが良い。

個人的に残念だと思ったのは、全員がマスクを着用しての演技。

文字通り「コロナ禍」を過ごしてきた彼女達には必要なものなのだろうが。

ところどころ台詞が聴きとりにくい部分があった。

それでも、だいたいのところは初見でも理解できたし、見事だった。

普段の日常会話の延長のようでいて、生徒主体にしっかり作り込まれた構成だと思った。


そして、初日のトリがいよいよ徳島県立城東高等学校による「21人いる!」

新聞等による、事前に得た情報から、何となく「戦争」がテーマだとは知っていた。

しかし、なるべく先入観抜きに、フラットな状態で劇中に入っていくことを心掛けた。


地下室を思わせる部室の舞台装置、衣装やカレンダーなどの小道具。

照明、音楽など細部に渡る演出のすべてに無駄がない。

8月1日から始まる物語は、8月6日で大きく転換する。

「ボランティア」という隠語に象徴されるように。

はっきりと「戦争」という言葉は出て来ない。


また、演劇部が演劇部を演じると言う舞台設定が絶妙で。

役柄がそのまま、役者のパーソナリティを表しているようにすら感じる。

役者の顔と人柄を思い浮かべながら脚本を書ける位置にいてこそだ。

もちろん、内面は全く異なるだろうが、誰がどの役を演じるか。

そういう部分については、まさしく適材適所、それ以外ないという感じ。

実際、この脚本が書かれた当時は、部員数は21人だったらしい。

部員全員が、表舞台に立ち、裏の役割も担う。

一人ひとりの人間としての成長を見越して、愛情を注いで脚本を書いたに違いない。


「みんながとてもがんばって奇跡が起きた」とアキは言っていた。

絶対に彼はこの快挙を自分の手柄のようには言わないだろう。

生徒一人一人が自分の仕事に責任を持ち、自分で考えて行動する。

当然、共有すべきことは、しっかりと共通理解した上で、である。

これがしっかりとできるのは、日頃から信頼関係を築いていてこそ。

きっと彼は「自分は指導らしい指導は何もしてない」と言うのだろう。

目に見えるように、あれこれ直接指示することだけが指導ではない。

彼は素晴らしい指導者だ。

あんなに一緒になってアホなこと言って、バカ騒ぎしてたのに(笑)


劇の内容そのものは、現代社会に対するアンチテーゼもあり。

決して楽観できるものではない。

それも含めて、彼の伝えたかったもの。

その多くは、観る者にしっかり伝わったことだろう。

(全部を報せるのではなく、観客の数だけの解釈を与えるのもこの作品の醍醐味)

何より、この劇を一番身近に受け取っていた城東高校の生徒たち。

彼らの今後の人生の大きな拠り所となってほしい。

それは全国最優秀を取ったとか、国立劇場で演じたとか、そんな経験だけに留まらず。


終演後、鳴りやまない拍手がまた自分の心を熱くした。

周囲から漏れ聞こえてくる感想のどれもが賛辞で、関係のない自分まで誇らしかった。

自分自身は、いろんな想いが錯綜して、しばらく言葉が出てこなかった。


城東高校をはじめ、この日素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた高校生。

本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。


公演はもう一日あるとのことで、今日もまた熱演が繰り広げられていることだろう。

世の中は問題だらけだけど、こんなに素晴らしい若者の力があるのも事実。

まだまだ世の中捨てたものじゃないと心から思う。


さてさて、たくさんの刺激を受けて大満足だった自分だが。

夜に、もうひとつ、若者に力をもらいに行ってきた。

用賀の「くすのき公園」で行われていた、「用賀サマーフェスティバル2023」

この野外ステージに、山の日ライブに出演してくれたナカタクの息子が出演するという。


せっかくの機会なので、足を運んでみた。

すると、まさしく「地元の地元による地元のためのお祭り」という様相。

これまた貴重な機会だった。

ナカタクの息子、Hが所属する「Django」はジャズバンド。

サックス、ベース、ドラム、そしてHのキーボードによるカルテット。

「03世代」ということで、どうやた全員2003年生まれのハタチらしい。


昼間に観て来た高校生とは2つ3つしか歳は違わないはずだが。

ジャズという音楽の形態もあって、自由そのもの。

(帝京高校ビッグバンドは、ジャズのスタンダードを演奏していたが、まるで違った)


曲名は分からないが、全部カバー曲だったらしい。

そこに、各自が自由にアドリブをつけていく。

ボーカルマイクをシンセサイザーに通して、ロボット声も出していた。

曲を知らなくても、充分楽しめるパフォーマンスではあった。


ただ、最後まで曲やバンド、メンバー紹介など無いままだったのは残念だった。

MCなしのライブパフォーマンスがバンドポリシーなのかも知れないが。

ただ黙って演奏を始めて淡々と演奏を続けたために。

最後まで客席とステージの距離が縮まらないままのように思えた。

後半一度だけ、サックスが

「みなさん、盛り上がってますか? 踊りましょう!」

などと叫んだので、余計に違和感があった。


演奏自体はスキルが高く、側にいた男の子など楽しそうに体全体で乗っていた。

だから、余計に何も言わないパフォーマンスが残念に思えた。

ジャズバンドが次々に出てくるイベントや、そういうお店ならありかも知れない。

だけど、不特定多数の人が集まるお祭りのような場では。

自分達や楽曲に親しみをもってもらい、一体感を創るような演出があっても良い。

そのためにはMCというのは手っ取り早く、有効な手段だと思う。

ま、あくまでもこれは個人的な感想で、絶対そっちが良いとは言えない。

ただ、ジャンルは違えども、自分も表現者側の経験も視点もあるからね。

若い彼らに何かひとつ言えることがあるとするならば、そういうところ。

むしろ、そこしかない(笑)


まぁ、とにもかくにも、刺激的な一日でした。

同時間帯、気になるライブイベントが複数あったのだけど、昨日はこれで大満足。


いろんな刺激を頂き、ますます自分も頑張ろうと思うのだ。


次回のライブは9月1日(金) YTY自主企画第3弾。ボーカル、ピアノ、尺八による異色ユニット「舞音」との共演。

「言葉と音が風に舞う」

さぁ、どのような言葉と音が響き、舞うのか、とても楽しみだ!




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